研究概要Research

生理活性タンパク質の体内動態制御とアンメット疾患への応用

 アンメット疾患とは、治療に対する患者の満足度が低い疾患です。その中でも慢性腎障害や筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する治療薬として期待されている肝細胞増殖因子(HGF)の体内動態研究、特にヒトにおける体内動態の予測とメカニズムの解明に関する研究を行っています。HGFは700個以上のアミノ酸が共有結合してできたタンパク質であり、低分子医薬品とは大きく異なる性質があります。HGFの体内動態には、肝臓に存在するHGFの受容体(細胞膜に存在し、HGFと結合して生物活性を発揮するタンパク質)を介した細胞内への取り込み機構が重要であることが、実験動物レベルで明らかになっていました。私たちの研究によって、そのメカニズムがヒトの体内動態においても重要であることが示唆されました。私たちの研究成果は、HGFを適切な投与量で投与し、最大限の効果を期待する上で、重要な情報です。

 アンメット疾患の一つである妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy, HDP)に対する治療薬の開発研究も行っています。高血圧の治療薬はほとんどが低分子化合物であるため、胎盤を通過して胎児に移行する懸念があり、妊婦に対して多くが禁忌です。このためHDPに対する有効な治療薬が乏しいのが現状です。私たちの研究室では、降圧作用を示す生体内膜タンパク質(分子量190 kD)のヒト型遺伝子組換えタンパク質がHDPに対する有効な治療薬になりえるのではないかと考え、研究を進めています。高分子であるため胎盤を通過する可能性が低く、妊婦に対して安全な医薬品を目指しています。一方で高分子であるが故に、生体内で不安定であることが懸念されるため、より適切な体内動体特性を示すと予想されるさまざまな組換えタンパク質を合成し、治療に最適なタンパク質の作製を目指しています。

 これまでの医薬品は低分子化合物(有機化合物)が中心でした。今後も低分子化合物の重要性は変わらないとされている一方、タンパク質、核酸、細胞など多種多様な物質が新たな医薬品として開発されつつあります。このような医薬品の多様性はモダリティとも呼ばれます。タンパク質は今後の医薬品モダリティの重要な柱の一つですので、医薬品開発を志向した基礎研究を進めることが重要と考えています。

<このテーマに関連する主な研究業績>
Matsukawa T, Mizutani S, Matsumoto K, Kato Y, Yoshihara M, Shibata K, Kajiyama H. Placental leucine aminopeptidase as a potential specific urine biomarker for invasive ovarian cancer. J Clin Med 11, 222, 2022.

Yoshihara M, Mizutani S, Kato Y, Matsumoto K, Mizutani E, Mizutani H, Fujimoto H, Otsuka S, Kajiyama H. Recent Insights into Human Endometrial Peptidases in Blastocyst Implantation via Shedding of Microvesicles. Int J Mol Sci 22(24): 13479, 2021.

Mizutani S, Matsumoto K, Kato Y, Mizutani E, Mizutani H, Iwase A, Shibata K. New insights into human endometrial aminopeptidases in both implantation and menstruation. Biochim Biophys Acta 1868(2): 140332, 2020.

Sugiura T, Takahashi S, Sano K, Abe T, Fukuta K, Adachi K, Nakamura T, Matsumoto K, Nakamichi N, Kato Y. Pharmacokinetic modeling of hepatocyte growth factor in experimental animals and humans. J Pharm Sci 102(1): 237-249, 2013.

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